フィルダムの安全性
1.水上町への説明

 奈良俣ダムの調査時代の話。水上町から、石と土を盛り立てる100mを越えるダムが頭の上にあるのは怖い というフィルダムの安全性を納得させて欲しい旨要請があった。当町には藤原ダム、矢木沢ダム、須田貝ダムとコンクリートダムがあってコンクリートダムは安全であるという気持ちが強かった。

 私たちはことある毎に今までこのタイプのダムは造られているし、私たちも万全を期して施工するので大丈夫だ と説明してきた。

しかし、施工者側(当時の建設省、水資源公団)が移住ら説明しても納得してくれない。そこで説明役として中立的立場である学識経験者として山梨大学の村幸雄教授にお願いすることとした。その前夜、先生に状況説明をして帰るとラジオで「ティートンダムの決壊」を報じていた。翌日、町は既に知っていた。こんな中で先生はどんな説明をして頂けるのだろうか。

 「人間のすることに100%はない。それで出来上がっても、試験湛水という実荷重をかけた試験や巡視、測量・計測などの監視により安全性を常時確認している。」と説明した。教授が「人間のすることに100%はない。」とみんなの側になったことにより町の人たちはいたく感銘を受け、納得した。

2.作業員の話

 寺内ダムでの話。寺内ダムは筑後川の支川佐田川が筑後平野に出る正にそこにある。工事には地元の方が何人か加わっていた。やはり土よりコンクリートの方が安心であるという考えは同じである。

作業員として岩盤清掃斑に居た人の弁。「土(コア材)を盛り立てるのにどうして嘗めても差し支えないように掃除をするんだ。こんなに丁寧にするのならフィルダムでも安心だ。」 彼は地元の有力者だった。自分たちが手掛けたダムがこんなに気を遣って造られていることに安心と誇りを持ったと思う。説明は全く要らなかった。